公理的設計
axiomatic design
公理的設計は,1980年代にSuhにより提唱された設計方法論であり,良い設計に共通する要素を考慮することにより得られた設計に関する二つの公理(axiom)を満たすことにより,製品の性能,耐久性,および信頼性などを改善することができる*1,2.公理的設計は,二つの公理をベクトルや行列を用いて表現することにより,設計を科学的に説明した数少ない設計方法論の1つである.本設計方法論により,主観や経験に依存する学問として認識されていた設計工学の科学的基盤が確立されたといっても過言ではない.
■ 独立公理と情報公理
1つ目の設計公理は独立公理(independence axiom)と呼ばれ,要求機能が互いに独立している設計を是とする.
例えば,蛇口の設計において,温度の調整と水量の調整という2つの要求機能を満たす設計解を考える.
温水と冷水の量を調整するレバーを設けた場合,温度と水量は同時に調整される(2つの要求機能が互いに干渉する).
一方,水量比と全体水量を調整するレバーを設けた場合,温度と水量は独立に調整される(下図).
ここで,前者は干渉設計(coupled
design),後者は独立設計(uncoupled design)と呼ばれ,公理的設計においては,独立設計を目指す.
もう1つの公理は情報公理(information axiom)と呼ばれ,情報量(information content)が最小の(成功確率が最も高い)設計を是とする.
情報量は,要求機能のばらつきの範囲(システムレンジ)と,それが設計の許容範囲(デザインレンジ)を満たす範囲(コモンレンジ)の比を用いて算出される(下図).
以上のように,公理的設計においては,独立公理に基づいて独立設計を満たす設計解を得るとともに,それらの設計解を情報公理に基づいて定量的に比較することにより,最良の設計解を導出する.
■ 参考文献
*1 N.P. Suh:The Principles of Design, Oxford University Press(1990)
*1' 畑村洋太郎(訳):設計の原理,朝倉書店(1992)
*2 N.P. Suh:Axiomatic Design, Oxford University Press(2001)
*2' 中尾政之,飯野謙次,畑村洋太郎(訳):公理的設計,森北出版(2004)